LGBTとは、セクシュアル・マイノリティ(性的少数者)の総称のひとつで、Lesbian(レズビアン、女性同性愛者)、Gay(ゲイ、男性同性愛者)、Bisexual(バイセクシュアル、両性愛者)、Transgender(トランスジェンダー、性別越境者)の単語の頭文字をとって名付けられています。

LGBTの方の中には、なかなか家族に打ち明けられない、打ち明けても理解してもらえないというケースもあるようです。お墓はまさに家族制度のシンボルのようなものですが、LGBTの人たちは自分たちのお墓をどのように考えれば良いのでしょうか。

この記事では、LGBTの人が入れるお墓に積極的に取り組んでいる寺院や霊園を紹介しながら、パートナーと一緒にお墓に入る方法や、その後の供養をどうすればいいのかなどを解説してまいります。

LGBTのお墓事情

黄の仏花が供えられているお墓

従来のお墓は、家族や先祖の遺骨を納骨する場所として考えられていましたが、たとえば婚姻関係を結べていないパートナーとは同じお墓に入ることができるのでしょうか。まずはLGBTの人たちのお墓事情を見ていきます。

法的にパートナーと同じお墓に入ることができる

まずは法律についておさらいをしておきます。結論から先に言うならば、婚姻関係を結んでいないパートナーであっても同じお墓に入ることができます。

法律では、祭祀主宰者(つまりお墓を誰が引き継いで管理するか)については定めてありますが、埋蔵される遺骨に関しては何も書かれていません。民法第897条には次のようにあります。

1.系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。

2.前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。 民法第897条 から引用

誰の遺骨を埋蔵するかは、祭祀主宰者の同意を得られるかどうかなのです。詳しくはのちほど「LGBTカップルと墓地管理者のためのガイドライン」の章段で触れております。

世間から受け入れられ始めているが、課題は多い

しかし、実際のお墓の現場では、まだまだ課題が多いのが実情と言わざるを得ません。
LGBTという言葉が広く社会に浸透し出して、多様な価値観への理解と共生の大切さが説かれています。国や行政も積極的に推進政策を打ち出し、世間の意識も高まり、受け入れられ始めているにも関わらずです。

なぜなら、お墓は故人の追悼のためのモニュメントという側面だけでなく、家族や親族のつながりのシンボルでもあるからです。

LGBTではパートナーと婚姻関係を結べるかどうかがひとつの大きな問題です。しかし、家族や親族の中ではLGBTの人の納骨を受け入れられないと感じる人は多くいます。

一方、自分自身がLGBTであることを家族に伝えることができない人もいるでしょう。こうした人たちがパートナーと独立したお墓を持つことも、また困難を伴います。仮に故人様が、死後の遺骨の扱いについて、家族のお墓ではなくパートナーと共に眠りたいという遺志を残していたとしても、家族とパートナーの間でトラブルが起きる可能性は十分にあるでしょう。

そんな中、生きづらい思いをしているLGBTのために、自由な生き方や供養の仕方を提唱している寺院もありますので、ご紹介してみたいと思います。

自由な埋葬・供養を推奨している2つのお寺

京都府のあじさい寺

ここでは、自由な埋葬や供養を推奨している2つのお寺を紹介します。

證大寺

證大寺は、東京都江戸川区にある真宗大谷派の寺院です。これまでのお墓は家族や先祖が入るものとして考えられていました。しかし證大寺では昨今のお墓のあり方の変化に合わせてどんな間柄でも入れるお墓『&(安堵)』(あんど)に取り組んでいます。新しいお墓の形である『&(安堵)』には次の3つの特徴があります。

性のスタイル・間柄・国籍・宗教不問

LGBTをはじめ、どんな人でも受け入れてくれる新たなお墓です。「お墓は家族のもの」という固定概念を崩して、社会の現実や、目の前の人たちが抱える問題に真正面から取り組む姿勢には頼もしさを感じます。性差や国籍や宗教を問わない姿勢は、まさにこの世界のあらゆる人々を広く救済する「大乗仏教」の教えを現代において実践していると言えるのではないでしょうか。

継承も管理費も不要 お寺が管理してくれる永代供養墓

『&(安堵)』は継承の心配をしなくても良いお墓です。また、維持管理費も不要なので、万が一のことがあったとしてもお寺が責任持ってお墓を管理してくれます。LGBTのパートナー同士では、お墓の継承は現実的に困難ですが、お寺が永代にわたって管理してくれるということは大きな安心につながります。

抱きしめることができる円柱型のお墓

『&(安堵)』は他には見ない新しいデザインのお墓です。白い大理石の円柱の形のお墓が芝生の上に並び、遺骨も土の中ではなく墓碑の内部に収蔵されます。そのテーマは「大切な人をいつでも抱きしめることができる」。伝統的な形にこだわらないそのフォルムは、間柄や性のスタイルを問わない新しいお墓の形としてぴったりです。

證大寺のさまざまな取り組み

また、證大寺ではLGBTに限らず、すべての人たちに開かれた供養が実現できるよう、さまざまな取り組みをしています。「手紙寺」と呼ばれる手紙を通して亡き人とつながりあう取り組みは、『&(安堵)』と合わせて2017年にグッドデザイン賞を受賞しました。お寺や霊園のすべてのスタッフはLGBTダイバーシティ研修を受けており、LGBT勉強会も積極的に開催しています。

詳しくは、『&(安堵)』の公式ページをご覧ください。※スマートフォン向けページです

性善(しょうぜん)寺

性善寺は、大阪府守口市にある「LGBTの駆け込み寺」として知られる寺院です。

住職を務めるのは、自身も性同一性障害に苦しんだ経験がある柴谷宗淑(しばたにそうしゅく)さん。早稲田大学を卒業後、読売新聞の記者を務めながら、四国八十八箇所巡礼を回ったり、高野山大学の大学院へ進学して博士課程の単位を取得するなどの特異な経歴の持ち主です。現在は、性別適合手術を受けて男性から女性となり、性善寺の尼僧住職をしながら、四国八十八箇所や西国三十三箇所の先達(せんだつ:巡礼案内人のこと)や園田学園女子大学公開講座の講師なども務めています。

男から女に性別を変えた尼僧・柴谷宗淑さんの半生

柴谷さんは、ご自身も幼い頃から性同一性障害で悩み苦しんだそうです。心は女なのに体が男であるために、ずっと男を演じてきたと言います。親に打ち明けることもできないまま、学生時代を経て読売新聞社に務めます。

柴谷さんの転機は1995年に起きた阪神淡路大震災。自宅の瓦礫の下に見つけた四国八十八箇所巡礼の御朱印帳を見つけた時に「弘法大師様が身代わりになってくれた」と感じたそうです。これをきっかけに四国巡礼を本格的に開始。高野山大学の大学院にも進み仏教の勉強に邁進します。

51歳で会社を退職し、翌月には高野山に出家をして、僧侶となりました。そして56歳の時に性別適合手術を受けて、戸籍を男性から女性に変更し、現在は高野山真言宗の尼僧として活動しています。かつては女人禁制とまで言われいた高野山。いまでも男社会であるだけに僧籍の性別変更は異例のことでした。以降は、性的マイノリティで悩んでいる人だけでなく、巡礼や遍路の関西の拠点となるべく、性善寺の設立に尽力します。

性善寺はLGBTの駆け込み寺 

性善寺は、法人としての正式名称は浄峰寺です。もとは日蓮宗系の単立寺院(どの宗派の本山にも属さない寺院のこと)だったものを柴谷さんが譲り受け、通称を「性善寺」としています。

性善寺の名前の由来は2つ。
ひとつは、仏教における悉有仏性(しつうぶっしょう)という性善説に由来しています。「悉有仏性」とは誰にでも仏性(仏になれる素質)があるということ。「性善説」は性悪説の対義語ですが、どんな人でもその本質は「善」であるという考え方。あらゆることを善として肯定的に捉えることを意味します。

そしてもう1つが、「多様な性は善」というメッセージが込められているといいます。性善寺は、まさに性同一性障害に苦しんだ柴谷さんにしかできないお寺なのです。

また、LGBTの人に限らないあらゆる悩みの受け皿としてある「よろず相談所」です。悩み相談、自分が望む性での生前戒名、同性パートナーや子孫のいない人の永代供養、事実婚カップルの仏前結婚式、祈祷や祈願なども受け付けてくれます。

柴谷さんに相談する方法

メディアにも取り上げられて大きな注目を集めている柴谷さん。高野山や四国だけではなく日本全国を講演などで駆け回っているため、多忙な日々を送っているようです。柴谷さんに会いたいと思ってお寺を訪ねても不在ということもあるでしょう。毎月第4日曜日はお寺で護摩祈祷や相談会を行っているようですが、まずは必ず電話やメールなどで事前連絡をすることをおすすめします。

柴谷さんに直接会えなくても悩みを聞いて欲しいという人は、お坊さんが答えてくれるお悩み相談サイト「hasunoha」を利用しましょう。回答僧として柴谷さんも登録しているため、そちらを利用してもよいでしょう。

このように、LGBTやさまざまなマイノリティの人たちが安心して供養できる取り組みが徐々にではありますが始まっています。次の章段では、LGBTの人でも安心して利用できる霊園をご紹介いたします。

多様なセクシュアリティに対応した霊園を紹介

青空と広い霊園

家族関係を超えた多様なセクシュアリティに対応してくれている墓地や霊園は、まだまだ少数です。そんな中でもさまざまな宗教や宗旨や間柄の納骨を受け入れてくれる霊園を首都圏から2つ、京阪神から2つご紹介いたします。参考にしてみてください。

東日本の霊園2つ

東日本からは次の2つの霊園をご紹介いたします。

ゆめみどう(東京都・港区)

ゆめみどうは、麻布十番にある自動搬送式の納骨堂です。麻布十番駅から徒歩4分という好立地にも関わらず、48万円から納骨堂を持つことができるため大変人気です。建物は伝統的な落ち着きを残しつつも明るく穏やかなモダンなデザインで作られており、落ち着いてお参りができるでしょう。

あざみ野庭苑(神奈川県・横浜市)

あざみ野庭苑は、横浜市青葉区の西勝寺が運営する樹木葬墓地です。お寺の境内とは思えない明るい庭園型のお墓で、四季折々の花と緑に囲まれて眠ることができます。あざみ野庭苑の樹木葬は個別埋葬。いわゆる合葬は行われずに、継承者がいなくなった時もお寺が永代供養をしてくれます。

西日本の霊園2つ

続いて西日本からは次の2つの霊園をご紹介いたします。

上京庭苑(京都府・京都市)

上京庭苑は古都・京都市内にある樹木葬霊園です。日蓮宗本昌寺の境内にあるため、落ち着いた雰囲気の中でお参りができます。境内にはさまざまな花や緑が植えられていて明るい雰囲気がお参りする人を癒してくれます。また、家族の一員としてペットの遺骨も一緒に埋葬できます。

魚住庭苑(兵庫県・明石市)

魚住庭苑は、兵庫県明石市にある遍照寺(浄土宗)の境内にある樹木葬霊園です。電車を利用する場合は山陽本線「魚住駅」より徒歩10分、車の場合は第二神明道路「明石西IC・大久保IC」より車で5分で駐車場も完備されているため、抜群のアクセスのよさを誇ります。見晴らしの良い墓地で、太陽の光と緑に囲まれて眠ることができます。

LGBTカップルと墓地管理者のためのガイドライン

LGBTのカップルが安心してお墓に入れる社会の実現に取り組んでいる会社に株式会社アンカレッジがあります。寺院墓地の設計や永代供養墓の販売をしながらお寺の運営をサポートしている会社です。

そんなアンカレッジが作成したのが「LGBTカップルと墓地管理者のためのガイドライン」。現代の日本の墓所がにいかにLGBTカップルに対して非寛容であるかを痛切に感じた当社は、墓地管理者に次の2つのことを推奨しています。

  • 墓地使用規約において、親族や縁故者だけでなく、「当該使用者を祭祀主宰者と指定した者」の焼骨を埋蔵することができるよう改訂する。
  • LGBTカップル双方にどちらかが亡くなった際に、パートナーを祭祀主宰者に指定する旨の書式を完成させる

この2つを行うだけで、LGBTカップルが1つのお墓の中に入れる権利を守れるものとしています。

同社代表の伊藤照男さんに話を伺うと、LGBTカップルのお墓への納骨には、法律でもケアできないさまざまな問題が潜んでいるそうです。

たとえば、東京都立霊園の場合、納骨が可能な遺骨は、原則として使用者の親族(配偶者、6親等内の親族、3親等内の姻族)のものだけとしており、内縁関係にあるLGBTカップルの場合はそのつど管理事務所に確認を取らなければならないようです。

また、民営墓地の経営者は主にお寺などの宗教法人になりますが、人々の救済のためにあるべきお寺も、保守的な姿勢をとっているところが多くあるようです。まずは墓地経営者に理解を広めたいという想いから、同社はこのガイドラインを作成したとのことです。

このガイドラインはアンカレッジのホームページ内に掲載されており、ダウンロードすることで、どの墓地管理者もそれを参考に使用規約を書き換えられます。

LGBTカップルの立場に立った時に、お墓にはどのような問題がつきまとうのでしょうか。具体的な例をもとに、Q&A方式で考えてみたいと思います。

LGBTの人のお墓はどうするの? Q&A

  • Q. 先祖代々のお墓に入ってよい?
  • Q.パートナーとのお墓、契約時の注意点はある?
  • Q.パートナーとのお墓、どのように供養してもらえる?
  • Q.自分の代で先祖代々のお墓が途絶えてしまう場合、どうしたらいい?

Q. 先祖代々のお墓に入ってよい?

法律的には入っても構いません。民法897条では、祭祀主宰者の指定については言及していますが、収蔵する遺骨に関してはなにも定めていません。つまり、法律上誰がどのお墓に入るべきかの文言がないのです。

また、平成12年に厚生労働省が発行した『墓地使用に関する標準契約約款』(墓地利用規約のモデルのようなもの)にも、「親族及び縁故者の焼骨を埋蔵することができる」としており、この「縁故者」の解釈によっては婚姻関係のないパートナー(内縁の夫または妻)も納骨できるでしょう。

ただしLGBTの場合は、内縁関係に加えて性的マイノリティに対する無理解はまだまだ存在します。法律的に問題がなくても、条例を設けている自治体もあり、さらには家族や親族の同意も得にくいことから、残念ながら実現は難しいというのが実情でしょう。

Q.パートナーとのお墓、契約時の注意点はある?

墓地の利用に際しては、あくまでもその墓地の利用規約に準じなければなりません。契約するときには必ず契約内容や利用規約を確認しましょう。利用規約には、埋蔵する遺骨、お墓の形状、使用料、墓地の管理清掃、契約の延長、使用権の継承、そして死後の供養や遺骨の扱いなどについて定められています。

Q.パートナーとのお墓、どのように供養してもらえる?

基本的には一般的なお墓と同じです。先祖代々のお墓であれば、あとを継ぐ者が供養を行います。また、永代供養付きのお墓(主に納骨堂や樹木葬)であれば寺院が永代にわたって供養をしてくれます。
先祖代々のお墓に入るということはパートナーとの関係を家族から了承が得られており、先祖代々のお墓に入ることを許されていることを意味します。

実際には、LGBTカップルの場合、先祖代々のお墓よりは、パートナーと二人だけのお墓、永代供養墓が多く選ばれているでしょう。

Q.自分の代で先祖代々のお墓が途絶えてしまう場合、どうしたらいい?

自分の代を最後にお墓を継ぐ人がいなくなってしまうと、先祖代々のお墓は無縁墓になってしまいます。もしも跡取りや墓を受け継ぐ人がいないと分かっているのであれば、墓じまいをしておくのがよいでしょう。墓じまいに関してはこちらの記事を参考にしてみてください。

まとめ

多様な生き方や考え方を尊重する社会が求められていますが、日本のお墓のあり方は「多様性」という点に関してはまだまだ出遅れているように思えます。

明治以降、お墓はイエ制度の象徴でもあり、同性婚の制度がない日本では、同性愛カップルが望むようなお墓の形はまだ見えていないように見えます。それでも、證大寺や性善寺のような寺院、さらにはアンカレッジのような企業の取り組みはやがて大きなうねりとなるかもしれませんし、そうあってほしいと願います。この記事が、お墓で悩むLGBTの人たちにとって、たとえわずかでも支えになってもられば幸いです。

では最後に、この記事のポイントを箇条書きでまとめます。

  • LGBTとは、セクシュアル・マイノリティ(性的少数者)の総称のひとつ
  • LGBTパートナー同士は法的には同じお墓に入ることができる
  • LGBTダイバーシティをはじめとする自由な埋葬・供養を推奨している2つのお寺に、東京の證大寺と大阪の性善寺がある
  • 證大寺の手がける新しいお墓「&<安堵=あんど>」には性差や国籍や宗教も関係なく、どんな間柄の人でも入ることができ、グッドデザイン賞も受賞している
  • 性善寺の住職・柴谷宗淑さんは、自身も性別適合手術を受けて性同一性障害を乗り越える。以降「LGBTの駆け込み寺」として性善寺の住職を務めている
  • 多様なセクシュアリティに対応した霊園として、ゆめみどう(港区)、あざみ野庭苑(横浜市)、上京庭苑(京都市)、魚住庭苑(明石市)などがある
  • 株式会社アンカレッジは、墓地管理者、LGBTカップル双方に向けて「LGBTカップルと墓地管理者のためのガイドライン」を作成。LGBTのカップルが安心してお墓に入れる社会の実現に取り組んでいる
  • LGBTのカップルは法律的には先祖代々のお墓に入れるが、家族や親族の同意が必要不可欠
  • LGBTのカップルのお墓は永代供養付きのものが多く選ばれている
  • 自分の代で先祖代々のお墓が途絶えてしまう場合は、墓じまいをする必要がある