自然災害を見据えたお墓の対策と災害による影響

お墓の災害対策

日本は災害大国です。阪神大震災や東日本大震災などの地震だけでなく、昨今は台風や豪雨も年を追うごとに脅威を強め、その被害は深刻さを増しています。2020年も、7月に集中豪雨が発生し、熊本県を中心に日本全国に甚大な被害を出しました。また、これからやってくる台風10号は観測史上最大の勢力で日本に上陸する恐れがあると言われています。自然災害から大切なお墓を守るにはどうすればいいのでしょうか。自然災害がお墓に与える影響に触れつつ、あわせてお墓を建てるときに備えられることや今あるお墓への対策などを紹介します。 

この記事の目次

  1. 自然災害が与えるお墓への影響
  2. 自然災害に備える方法
  3. まとめ
  4. 監修者コメント

自然災害が与えるお墓への影響

地震や台風などの自然災害は私たちの社会生活に大きな影響を及ぼします。いつどこで起きるかわからない地震、毎年のようにやってくる台風による豪雨などは、これらは私たちの住む家屋だけでなく墓石にも甚大な被害を与えます。たくさんある自然災害の中でも、特に頻繁に発生する地震と水害がお墓に与える影響について考えてみましょう。

【地震】がもたらす墓石の倒壊、地割れ

地震で記憶に新しいのは、阪神大震災(1995)や、東日本大震災(2011)ではないでしょうか。この他にも、21世紀に入ってから起きたものだけでも、新潟県中越地震(2004)、熊本地震(2016)、大阪北部地震や北海道胆振東部地震(ともに2018)などが挙げられます。震度5以上の地震は、2019年の1年間だけでも、9回も起きています。

地震によって一番起こりやすいのが墓石の倒壊です。基本的な施工方法では、シリコンやエポキシ系の混合接着剤などを塗布しながら墓石を積み上げていきます。そのため、震度の強い地震が来てしまうとどんなに耐震や免震施工をしていたとしても倒壊は免れません。

また、地震は大地そのものが揺れるので、どんなに強力な基礎工事をしていたとしても、霊園の造成工事、さらにはその土地のそもそもの地盤の状況によって地割れのヒビが走ることもあり、ひどいケースでは地盤から根こそぎ崩れることもあります。

【水害】がもたらす墓石の流出、土砂崩れ、塩害

ここ数年、梅雨から秋にかけて、集中豪雨や台風がその威力を増しています。雨や風そのもので墓石が倒壊したり破損するようなことはありませんが、豪雨がもたらす洪水や土砂崩れなどが墓地や墓石に甚大な被害をもたらします。

今年にあった災害の名前を入れてください。(より今にフォーカスした記事にしたいため)

洪水や土砂崩れからの復旧が大変なのは、墓地から遠く離れた場所に流出してしまうこと、石材が多量の水分を含んでしまうこと、土砂や流木が墓石に絡みつくことなどから、復旧は困難を極めます。筆者も土砂崩れの巻き込まれた墓地の復旧作業に従事したことがあるのでよく分かるのですが、山からの大量の土砂の中から墓石を掘り出し、さまざまな部材を集めて、元の場所に復元する作業には大変な時間と労力を要します。

また、墓石に使われる御影石は塩害に弱いという特性があります。これは、御影石が鉄分を含んでいるからであり、塩分に触れることでサビが出やすくなってしまうからです。海に近い墓地では、表面がザラつき、サビの出ている墓石をよく見かけます。もしも洪水や土砂崩れで海水に浸かってしまったなら、そのダメージも大きなものがあるでしょう。

自然災害に備える方法

いつやってくるか分からない、いつやってきてもおかしくない自然災害。大切なお墓を守るために、私たちにはどんなことができるのでしょうか。地震や水害対策は、墓石業界でもさまざまな工夫や対策が考えられますが、それでも決定的な施工方法がないというのが実情です。しかし「やらないよりはした方がいい」という観点に立って、いくつかの方法を考えてみましょう。

いま建っているお墓にできる対策

いま建っているお墓にできる対策は、「免震対策」と「倒壊対策」でしょう。まずは近くの石材店に相談してみましょう。

免震とは、地震の揺れの力を分散させることです。最近注目を集めているのがシリコン素材の免震材やゲルパット。軸石と上台、上台と下台の間に免震材を入れて、墓石にかかる揺れの力を弱めます。また、よく使われるシリコン接着剤も、無接着よりは、1点接着、4点接着、全面接着と、接着剤の塗布面積の広い方が転倒防止につながるという研究結果も出ています。接着剤は経年劣化により、施工から時間が経つと効き目が弱まるので、建立から10年近く経過した段階で、接着剤の補充を検討しても良いでしょう。

また、外柵材の転倒防止のためのステンレスの金具打ち込みもよく行われています。部材同士をつなぎ合わすので、万が一の時でも墓域外への転倒を防げます。

新しくお墓を建てるときの対策

これから新しくお墓を建てようとする人は、霊園探しの段階で、きちんとハザードマップを確認しておく、造成工事がきちんとなされた霊園を選ぶなどを心がけましょう。東日本大震災のあとの被災地報告でも、造成工事の甘い墓地の方が被害が甚大だったと言われています。どんなにお金をかけて区画内の基礎工事を手厚くしても、その下にある造成部分が弱いと元も子もありません。

また、墓石の形も縦に長い従来の形よりも、重心の低いワイドな形の方が地震に強いとも言われています。石材店選びの際には、免震対策や倒壊対策についてもっとも納得のいく説明をしてくれる業者を選ぶよう心がけましょう。

お墓の地震保険に加入する

住宅に火災保険や地震保険があるように、お墓でも天災による被災を保証する保険商品があります。株式会社リコライフが販売するお墓の天災保証サービス「おまいりまもり」です。地震や土砂崩れなどの天災で全壊または倒壊した墓石の再購入や修復費用を保証してくれます。月々1,680円の掛け金の「おまいりまもり50」プランでは最大50万円が、1,980円の掛け金の「おまいりまもり100」では最大100万円が保証されます。万が一の時のことを考え、事前にこうした保険に加入しておくと安心です。

ただし、「おまいりまもり」は、石材店を通して申し込みます。取り扱い石材店については株式会社リコライフのウェブサイトで事前に確認しておきましょう。

http://www.recolife.co.jp/ohaka/

まとめ

自然災害は避けられませんし、打ち克つこともできません。それでも私たちは、大切な家族の遺骨を供養するためにお墓を建てて大事にしたいと考えます。被災地の方々が、時間をかけてでもボロボロになった墓石を元の区画に戻し、手を合わす姿には胸を打つものがあります。それだけ私たちは、遺骨の眠る土地を大切にし、そこに建つ墓石に祈り込めてきたのです。

「ご先祖様と私たちをつなぐお墓を大切にしたい」 だからこそできる限りの対策をとって、万が一の時であっても大切なお墓の被害を最小限に食い止められるようにしておきたいものですね。

【参考文献】

  • 『地震に強いお墓の報告書』日本石材産業協会(2005)
  • 『お墓の教科書』日本石材産業協会(2014)

●古川愛子・三輪滋・清野純史・大塚久哲『基礎の剛性と接着剤の塗布面積が墓石の地震時挙動に及ぼす影響の解析的検討」(2009) http://library.jsce.or.jp/jsce/open/00561/2009/12-0469.pdf


監修者コメント


監修者
終活・葬送ソーシャルワーカー
吉川美津子

大きな災害で最も印象的だったのは2011年の東日本大震災です。震災後まもなくのこと、某都立霊園に訪れてみたところ、多くの墓石が倒壊し、中には数十メートル飛んでしまっている石もありました。古い霊園だったため、耐震、免振構造になっていない墓石が多かったことも影響していると思います。一方で、郊外の某民間霊園の場合、墓石の傾き等はあったものの、管理に携わっている石材店がすぐに復旧作業にとりかかり、一週間程度で元通りになっていました。開園して数十年経過しているとはいえ、多くは耐震、免振構造になっていたことと、指定石材店の対応が早かったことが理由にあげられると思います。
近年建てられるお墓は基礎工事を含めて自然災害に対応している構造になっています。目に見えない部分を丁寧に施工してくれる石材店を選びたいものです。